「伝統と革新」において、本当に必要なコト

手漉き和紙の伝統的なはがき

皆様こんばんは、和紙屋4代目の大上です。

昨日、ガイアの夜明けでは、伝統産業の会社が新しい時代に合ったビジネスを行うために苦闘する様子が描かれていました。
伝統と革新について思うところを書いていきたいと思います。

目次
伝統のイメージは古臭いもの??
伝統の本来の意味は伝燈
伝統は古びない
じゃあ、革新ってなんなのか
バイアスに縛られない発想を持つ

伝統のイメージは古臭いもの??

手漉き和紙の伝統的なはがき

手漉き和紙の伝統的なはがき

我々伝統産業に携わる人間は、いつも伝統と革新について思いを馳せます。
皆様にとって、伝統っていうのは古臭いもの、というイメージもありますでしょうか。
革新と対になって語られることも多い伝統です。

今ちょっとしたトレンドなのは、伝統産業も革新が必要だ、という論調です。
全くその通りだと思っています。
しかし、革新の内容といえば、ちょっと絵柄を斬新なものにしてみたり、用途を変えてみたり。
実は、こういった変化も含めて、私は伝統だと考えています。

伝統の本来の意味は伝燈

和紙の灯り

和紙の灯り

私がいつも伝統文化を考えるときに念頭に置いている考え方をご紹介させてもらいます。

茶人の千宗屋さんのお話なのですが、非常に感銘を受けました。

「伝統の本来の意味は『伝燈』です。『燈』は燈明の炎。受け継がれていく核の『燈』の部分は、固定されたものではありません。火を消さずに伝えるため、常に新しい油を注ぎ、燈芯を変えて『燈』を守ってきたのです。

 古くからのものに触れると、人は感動します。しかし、伝えるためには感動だけではなく、共感が必要です。現代の生活の中で『自分たちもやってみよう』と共感してもらい、そこからさらに生まれる感動。それが、今後の茶の湯の理想形なのです」(引用元:歌舞伎美人

私の解釈としては、和紙という伝統素材を使う上で、新しい油とは、「今を生きる人たちの生活」に他ならないと思っています。
ライフスタイルは刻一刻と変わっていくものです。
平安時代のトレンドと、戦国時代や江戸時代のトレンドは違っていて当たり前です。
ならば、平成を生きる、この時代にあった使い方に適応しながら、「和紙」という燈を燃やし続けることこそが、伝統に他ならないと考えています。

伝統は古びない

美しい和紙

美しい和紙

そう意味では、伝統文化というのは、いつまでも古びることのないものなのです。
ダサいと思ったらダサいと言ってください。古臭いと思ったら古臭いと言ってください。
「伝統文化だからこんなもんか」という手心が、ひょっとすると一番伝統産業の衰退に拍車をかけているのでは、と思います。

変えるべきところを変えないのは、「伝統を守る」ということとイコールではありません。
もちろん、「変わらない良さがある」というものは、生活者にとって必要とされているものなので、変える必要はありません。

本来素晴らしいものであるのに、伝え方の部分や用途提案の部分がしっかりとできていないものもたくさんあると思います。
常に「今を生きる人たちの生活」を見据えながら、変えるところは大胆に変える、変えないところは残す、というような判断をしていくことが大事だと思います。
そういう意味では、和紙業界にいる人間が伝統を作っているのではなく、本当に普通の、市井の方々が伝統文化の担い手である、ということができると思います。

ぜひ、一緒に伝統を繋いでいきましょうね!

じゃあ、革新ってなんなのか

機械抄き和紙の機械

機械抄き和紙の機械

一方で、革新とはいったいなんなのでしょうか。
昨今、「イノベーション」という言葉がよく語られますよね。
柄をモダンにしていくことなどは伝統の範疇であると書きましたが、では一体何が革新なのでしょうか。

私が最も尊敬するビジネスデザイナーの濱口秀司さんという方の見解が非常に腑に落ちましたので、引用をさせていただきます。

曰く、イノベーションとは、学者の数だけ見解があるので定義は出来ないが、以下の3要件を満たしているものはイノベイティブである、とのことです。

1.見たこと・聞いたことがない
2. 実行可能である
3.議論を生む(賛成/反対)
logmiより)

1.「それ見たことある」となってしまうと、革命的に新しいことではないですよね。
2.また、いかに革新的なアイデアでも、実現が到底難しいものであれば、それは夢物語です。
3.そして、革新的なものは誰も見たことがないので、それが本当に売れるのか、ヒットするのか、
誰にも分らないので、当然商品化について反論も巻き起こると思います。

イノベーションを起こすことができれば、市場のありようなども変容していきます。
こればかりは、一般の方々に「和紙で何が欲しい?」とヒアリングしても出てこないものだと思います。
まだ無いもの、ですから。

最近、といってももう発売されてから結構な期間になるようですが、山梨の和紙メーカーである大直さんが作られた、
SIWA」というブランドは、そういった要件に近いものがあるのでは、と思います。
とっても大好きなブランドです。トートバックを愛用しています。

siwaのトートバック

siwaのトートバック

1昔から和紙で袋を作ったりというのはありましたが、多くの人にとっては見たことのないものでした
2自社の破れない障子紙を抄く技術と、デザイナーさんの力が交わりました。また縫製も可能となりました
3強度は大丈夫なのか、和紙といえるのか、など議論はたくさん起こったのではないか、と思います。

また、手前味噌ではありますが、弊社の「メガネが拭ける和紙懐紙」も、そう意味では少しはこの3要素を満たしているのでは、と思っています。

バイアスに縛られない発想を持つ

必要なことは、共通の固定概念(バイアス)に縛られたままではなく、どれだけバイアスを壊していけるのかだそうです。
同業界だけでなく、デザイナーさん、異業種のメーカーさん、その他いろいろな知見を持った人たちと結びつきながら、革新を目指すこと。これも、問屋である私どもにとって非常に大事な取り組みであると考えています。

伝統を繋ぎながら、同時に革新も目指す。
とっても欲張りな話ですが、そうして次の時代に和紙がつながっていくのかな、と考えています。

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