手漉き和紙と機械抄き和紙の違いについて

機械抄き和紙

こんにちは、大上です。

本日は、手漉きと機械抄きについて書いてみたいと思います。

毎回書いていますが、オオウエとしての独断に基づく記載となっておりますので、和紙業界の中では異なる思いを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

手漉き和紙、機械抄き和紙の成り立ち

皆様が和紙を思い浮かべるとき、大多数の方は、冬の寒い日に、冷たい水を目の前に、木製の道具を前後左右に揺らしている場面が出てくると思います。そちらが、手漉き和紙です。

手漉き和紙

手漉き和紙

かつては、藩の財政を支えるため、全国各地で和紙の製造がおこなわれていました。紙が庶民にもいきわたるようになる江戸時代の大坂での和紙の流通量は米、木材に次ぐ量だったようです。和紙の原料である楮は、比較的全国で栽培できたため、産業として取り入れやすかったのです。

その後、明治に入り、西洋の紙が日本を席巻し、だんだんと手漉き和紙が苦境に立たされる中で、生産効率を上げるため、洋紙の技術を取り入れた機械抄き和紙が生まれました。和紙の繊維は洋紙に比べて非常に長いため、洋紙を抄く機械では詰まってしまい難しかったのと、洋紙の抄き方では1方向にばかり紙が流れるので、和紙特有の絡みを作りにくかったのです。和紙に絡みが必要なのは、前回前々回の記事のとおりです。

それを改善して横揺りを加えた懸垂式の抄紙機が高知で開発され、機械抄き和紙の産業としての歴史が始まりました。

機械抄き和紙

機械抄き和紙

前置きが長くなってしまいました。それでは、
①手漉き和紙と
②機械抄き和紙として、
ざっくりと違いを見ていきましょう。

絡み・強度
①何度も前後や左右に揺り動かすことにより、何層にも繊維が絡み、強度が上がる。また、楮などの長い繊維だけを使った紙も当然可能です。
②機械では、通常は一方向に流れるところを、横揺れを与えることにより絡みをつけているが、手漉きほど多層には出来ない。したがって強度も落ちる。また、楮だけで抄こうと思うと、繊維が長すぎて機械に適合しないので、何かを混ぜ合わせたり、楮よりも繊維の短い針葉樹のパルプを使うことが多い。

大きさ・長さ
①特注サイズの道具を使えば、10人、20人がかりで大きな和紙を漉くことが出来ますが、基本的には人一人で扱える範囲を一枚ずつ漉いていきます。
②巻き取りで抄くので、幅は1m前後と固定されていますが、長さは何千メートルと長いです。これにより、ラミネート加工や輪転での印刷などを行うことが出来ます。弊社の場合は、この巻き取りで抄いたものを、平版に断裁して入荷しています。

保存性
手漉きだから長持ち、機械抄きだから持たない、ということは一概には言えません。一般に機械抄きのほうが効率を求めるためパルプなどを使用しますが、それはあくまで経営方針です。楮を用いることで、長持ちすることが求められる修復の現場では、機械抄きの土佐和紙が非常に認められています。

生産効率・価格
①原料処理から漉きまで、非常に地道な工程の元作られます。当然、機械に比べれば高くなります。
②一概に機械だからすべて安いというわけでは決してありませんが、生産の効率は上がります。原料によっても値段はだいぶ変わります。

知名度
①やはり、和紙と言えば手漉きです。
②機械抄き和紙というと、知名度もあまりありません。機械で和紙と言えるのか・・・と言われたりすることもあります。和紙の歴史の中で生まれてきた立派な伝統産業です。私どもは、機械抄きの和紙とともに成長してきた会社なので、かなり思い入れがありますが、実際のイメージはまだまだというところでしょうか。

どういう場面で、どんな効果を期待して、どういう人に、どういう価格で販売したいのか。それによって、手漉き和紙と機械抄き和紙の価値が全く変わってきます。一概にどちらが上でどちらが下、ということは非常にナンセンスです。もっと知識を蓄え、実践し、あなたに最適な和紙をお仕立します。

コメントを残す