手漉き和紙の風合いを持った機械抄き奉書紙の開発
手漉き和紙の風合を持ちながらポチ袋、金封等に使える厚手の腰のある原紙が作りたい。
土佐の和紙メーカー所有の含侵紙という原紙が手漉き和紙の風合いを持っていた。にじみが出るので、サイズ剤というにじみ止めを多量に入れてもらったが、風合いを出すために、繊維を極力つぶさずに抄き上げた。
原料叩解がほとんどないので、紙表面は弱く、オフセット印刷適性はないに等しいが、腰があってしっかりした紙なのに紙表面が手漉き和紙の風合を維持した画期的な奉書紙が出来た。
紙表面のてかりも無くすごくいいので製品が映えると喜んで頂けた。後年、オフセット印刷にも対応するため紙加工会社の協力を得て、表面コーティングを施し手漉風合の紙表面をなんとか維持しながら紙表面をももけにくいこの新しい和紙を製品化して、これも定番商品の一翼を担っている。
商品名:シルク奉書、ST奉書、STコーティング4/6
オフセット自動給紙可能な御札用紙の開発と展開
御札を奉製するにあたり、筆を使用して文字や印鑑を押したりすることには繊維の目をふさがないほうがいいのだが、オフセットで印刷するには従来の和紙では難しかった。しかし、印刷もできて筆書きもできる紙を開発してほしいとの依頼があった。
メーカーと相談して、筆書きの墨が紙の表面に残ってしまわずにすっと引くギリギリの所まで、わずかに印刷インキを止める薬品を投入して原紙を抄造することにした。
若干紙の表面がしまり、和紙の風合は少し落ちたが、オフセット印刷も難なく通り、かつ、お寺の方などが筆で書いても支障なくスムーズに仕事ができる御札ができるようになった。
オフセット自動印刷対応となったことで、従来の原紙では難しかった丁付印刷が可能となり、納期の短縮などに貢献できることとなった。後にこの製法により、納経帳、集印帳、過去帳へと原紙の特注差別化商品の開発につながった。
製品名:御札用紙(名宝殿)→クリーム過去帳用紙 白寿
トイレットペーパーの風合いをヒントに、日本画を引き立てる紙を考案
先代大上勉は、当時ちり紙に代わって世に出てきたトイレットペーパーの風合に着眼し、オフセット多色印刷の可能なトイレットペーパー風合の奉書紙を作り、それをカレンダー用紙として開発できないものかと思い描いた。
早速、四国に飛んでトイレットペーパーのしわをつける工程を和紙のマシンに設置してもらうよう嘆願。伊予の和紙メーカーの了承を得て製造を開始。
腰もあり、オフセット印刷も出来る原紙としてトイレットペーパー風印刷用紙=宝クレープ紙が誕生した。
当初、加工での問題が絶えなかった。クレープ特有の凹凸が入った原紙はオフセット印刷後にしわを混入させる原因となったり、印刷インクの入り具合に影響を及ぼしたのだ。 しかし、日本画とのベストマッチだと用紙を選んで下さったお客様と試行錯誤の上に、「名画花鳥」カレンダーが誕生。どこでも印刷を出来るというわけではないので、同業他社の追随を許さず、 かつ、この原紙の特性を活かす印刷色にこだわり、特に海外での和文化紹介にも一役買うことが出来た。ヒット商品となり、お客様のカレンダー販売の上でもなくてはならない原紙として息づいたのは和紙屋冥利に尽きる一作である。 この製法は、後に宝クレープシリーズとなったのを始め、他メーカーで同様のものが発売され、和風紙としての代表的原紙となった。
製品名:宝A判カレンダー用紙