価格差100倍??和紙の価値は何で決まるのでしょうか。

様々な和紙

皆さまこんにちは、和紙屋4代目の大上です。
ブログをたくさん書こう!と決めまして前回より書いていますが、おかげさまでたくさんの方に読んでいただき、
またフィードバックもいただき、大変うれしく思っています。これからもよろしくお願いします。

さて、先週、今週の下町ロケットはご覧になられたでしょうか。手作業のすばらしさを再確認させられるお話でした。
和紙でも、手作業、機械それぞれに種類があります。本日はその特徴についてみていきます。

目次
様々な和紙があります
手漉きと機械抄き
原料の違い
どちらが良いものなのか
機械にしか出来ないことも

使用する場面により、手作業が生き、機械が生きる
製品作りにおいて、デザインが重要

様々な和紙があります

様々な和紙

様々な和紙

和紙といっても、様々な品種、価格のものがあるのはご存知でしょうか。
何をもって和紙とするか、という議論は尽きることがありませんが、こちらに対する考えも一応まとめておりますので、
ご興味のおありの方はこちらの記事をご覧ください。和紙ってそもそも何なのでしょうか。

価格を取りましても、1枚数十円のものから、1枚で数千円もするものまでございます。
単純計算、100倍以上です。

手漉きと機械抄き

手漉きの様子

手漉きの様子


どこでそのような差が出るかといいますと、一番大きいのは、
「手漉き」と「機械抄き」です。
テレビなどでよく取り上げられるのは手漉き和紙ですね。寒い冬の早朝に、冷たい水の中で紙漉き道具を前後左右に振るうさまは、
心に響くものがあります。
一方で機械抄きは、手漉きに比べて量を作ることができ、組織的に作っています。
やはり、機械で抄く方が効率は良く、安定した品質で比較的安価に供給ができます。
ちなみに、「漉く」と「抄く」を意図的に使い分けましたが、機械抄きの場合、「抄」が使われることがあります。
はっきりとした理由はわからないのですが、てへんに少ない、ということは手でやることを減らした、という意味なのかもと考えています。
手漉きと機械抄きの違いについてはこちら

原料の違い

和紙の原料であるコウゾ

和紙の原料であるコウゾ


そして、次に違ってくるのが原料。和紙の原料ではコウゾ、ミツマタ、ガンピなどの名前を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
また、洋紙にも使われる木材パルプを使う和紙も機械抄きには多いです。コウゾ、ミツマタ、ガンピは一般的には木材パルプよりも高価です。
これらの原料にも、国産と外国産があります。
他の業界と同じだと思うのですが、国産の原料は高く、外国産のパルプは比較的安価です。

もちろん手漉きで木材パルプを使うこともあれば、機械抄きでも100%コウゾを使って抄くこともあります。

こうして漉き方や原料の違いにより、100倍もの価格の開きが出てきます。

では、どちらが良いものなのか

土佐和紙の現場にて

土佐和紙の現場にて


株式会社オオウエは、卸の会社ですので、手漉き和紙も機械抄き和紙も両方扱っています。
どちらにも優劣はない、というのが私の見解です。
ただ、手漉きにしか出来ないこと、機械抄きにしか出来ないこと、原料の特性によって変わることがあるだけです。
価値というのは、最終的に手に取る方によって変容する、ということです。

木材パルプを使った和紙というのは、木材をパルプ化するときに出るリグニンという物質が出て紙の劣化を早めます。
なので、手漉きであろうが機械抄きであろうが、保存を目的とした用途には向きません。

コウゾという原料は、繊維がとても長く強靭で、木材パルプに比べると圧倒的です。
薄くて強いという要素を求められる修復のような場面では、大きな力を発揮します。
繊維が長く、普通の機械抄きの機械では詰まってしまうため、手漉きや一部の機械抄きメーカーに分があります。

また、紙の裏側にあるストーリーをより伝えやすいのも手漉き和紙かもしれません。とても地道な職人技は、人を魅了します。
メディアによく取り上げられるのは手漉きが圧倒的に多いです。
手漉きでは、機械では作りだせない寸法に人の手で出来たり、何度も繊維を絡めながら漉くことが出来るので、機械抄きに比べて、
はるかに強度を持たせることが可能です。
クッションなどの縫製品を作る場面でも、この強度は重宝されます。

機械にしか出来ないことも

土佐和紙の抄紙機

土佐和紙の抄紙機

反対に、機械で抄いた和紙にしか出来ない場面もたくさんあります。
便箋や封筒など、枚数を作りたい時には、印刷適性などもありますので、効果を発揮します。
販売単価を下げて、たくさんの方に手に取っていただきたいときも有効です。
また、品質が安定しているので、ラミネート加工など、その後の加工もしやすいので、色々な形に姿を変えていけます。
手で触ったときの柔らかさや温かみは、印刷適性を上げすぎてしまうと失われやすい傾向にありますので、
このあたりのバランスは非常に難しいのも特徴です。

使用する場面により、手作業が生き、機械が生きる
ようは、使い方によって、使う方のニーズによって和紙というのはその価値の発揮の仕方が変わってくるのです。優劣をつけるべき部分ではありません。
大事なことは、お客様にとって、どんな和紙がいま必要なのか、そうしたことをきちんと理解することなのです。
これは、たくさんの産地や和紙を扱う、問屋にしか出来ない部分です。

下町ロケットでは、帝国重工のロケットの打ち上げという、世界最先端の技術を要する場面に、手作業でしかなしえない部品の供給が
必要だった、ということです。量産には向きませんが、そもそも量産する必要がないのです。

製品作りにおいて、デザインが重要

デザイナーさんのトークショー

デザイナーさんのトークショー


あとはデザイン。
価値あるものを価値通り、価値以上に伝えられるかはデザインに拠る部分も大きいと思います。
どれだけ手漉きで国産の原料にこだわった、というのを強烈にプッシュしても、それを欲しいと思うお客様に伝わらなければ、
「なぜいいものなのに売れないのだろう、みんなわかってくれない」ということになります。
極端な例ですが、1000年先まで残したいメッセージをお持ちの方にとって、一番必要なのは1000年持つ和紙です。
国の重要な文書はこうした和紙に記載されている、というのを聞いたことがあります。かなり値段が上がっても購買されます。
これは、パルプの和紙では絶対に不可能です。タイトルやパッケージを含めて、その価値をきちんと伝える商品づくりは非常に重要です。

また、機械抄きの木材パルプの和紙でも、非常に情感を伝えられるような便箋や封筒に仕立てることが出来ます。
デザインの力で、和紙を通して手に取る方の「大切な文章を良い紙に書いて思いを伝えたい」という願いをかなえることができます。
コストも、手漉きの和紙製品に比べると安価なことが多いので、手に取りやすくなります。

手に取る方が増えると、その分、和紙に対して興味を持つ人が増えると考えています。
そうすると、なかなか高価であるために市場には並びにくい手漉き和紙の魅力を、より深く知りたいという人も増えていくと思います。
入口を広く持ち、そのうえで興味を深く持つ人が少しずつ生まれていく、こういう取り組みが和紙業界には、もっともっと必要だと思います。
そのうえでも、機械抄き和紙はなくてはならないものです。

しかし、ひとたび行き過ぎてしまうと、紙の値段なんて下げられるだけ下げて、洋紙と寸分変わらぬような和紙や、洋紙に和風のデザインを載せるだけの製品に変わっていきます。
こういった製品を批判する気は全くありませんが、和紙屋の人間としては、やはり和紙の製品をたくさん生み出したく思っています。

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